ゴー!医見

つばさクリニックでは毎月院内広報誌「ゴー!つばさ」内の院長のエッセイです

2月5日、ある患者さん(Aさん)が亡くなりました。乳癌で、肝転移もありました。30歳の若さでした。昨年の11月から往診で診させていただいていたのですが、とってもチャーミングで聡明な女性でした。「動けるうちに色々なことをして、最期は緩和ケア病棟で亡くなりたい」と、言われていました。お母さんと旅行に行ったり、お友達とお泊りしたりしていました。1月下旬から体調が悪化し、2月1日に入院され、翌日緩和ケア病棟に移りました。2月4日にはヴァイオリンの演奏ができたのですが、翌日容体が急変したとのことです。
先日、おばあちゃんが来てくださいました。この方は当院開院以来からの患者さんです。俳句の達人で、数々の句を贈呈してくださっていますが、今回はお孫さんに捧げる追悼句集を贈呈してくださいました。可愛いお孫さんを失った悲しみ、お孫さんへの深い愛情がひしひしと伝わってきて、涙なしには読めません。一部を紹介します。

春苺      大口あけて     食べて欲し

Aさんは苺が大好きでした。病状が進んで食欲が落ちてしまったお孫さんのために、おばあちゃんが苺を買って病院に駆けつけたそうです。もう一度Aさんの嬉しそうな顔が見たい、という親心(祖母心)がひしひしと伝わってきます。赤ちゃんの頃から今日に至るまでのAさんとの楽しかった出来事を思い出しながらこの句を作ったのだろうと思います。

ヴァイオリン     まだ弾きたき娘      鳥雲に

Aさんはヴァイオリンの達人で、オーケストラのコンサートマスターを務めるほどでした。10年以上前になりますが、おばあちゃんが「家中の柱にヴァイオリンの音色が染みついている」と言われていたのを思い出します。もっともっと弾きたかったでしょうに。

春淡し     ベートーベンの     曲流る

お葬式の間、ベートーベン交響曲第9番の第3楽章が流れていたそうです。Aさんがこの曲を流すように希望していたのだとか。第3楽章は、合唱もあるダイナミックな第4楽章とは対照的に静かで穏やかな旋律ですが、演奏者の力量が最も問われる楽章だという評価を聞いたことがあります。Aさんもコンサートで何度もこの曲を演奏していました。

浅春や     ネットで頼む     ドレス着く

Aさんは天国に旅立つ時に着る服も自分で決めていました。インターネットの通販で注文した、そのウェディングドレスが亡くなる前日に届いたそうです。ご家族はどんな思いでお見送りをしたのでしょうか。その姿を想像するだけで涙が出てきます。
Aさんは私が往診した時はいつも明るい表情をしてくれてしっかりとお話をしてくれました。本当に聡明で、率直な女性でした。ある意味、あまり手のかからない患者さんでしたが、今思うと、私の前では無理をしていたのかもしれません。もっともっと色々なお話がしたかったと思います。Aさん、安らかにお眠りください。

最後にもう一句紹介します。

梅二月      孫に代わって     やれなくて

つばさクリニック院長 石川 亨


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