2018年9月 熱中症、明日は我が身
岐阜市内の病院で入院患者5人が相次いで亡くなりました。熱中症が原因である疑いが濃厚です。入院患者が熱中症で死亡する、などというのはあってはならないことで、亡くなられた方は本当に気の毒だと思います。例によってマスコミは院長バッシングに躍起になっていますが、あそこまで袋叩きにする必要があるのでしょうか。確かに病院の対応には大いに問題がありますが、もっと本質に迫る報道をして欲しいと思います。
老人専門病院
報道ではあの病院のことを「老人専門病院」と言っています。専門病院というといかにも立派な病院のように思われますが、実態は違います。普通の病院では「治療の必要がない」という理由で入院させてもらえず、老人ホームでは「適切な医療行為が行えない」という理由で入所させてもらえない、家でも「お世話する余裕がない」ということで看てもらえない、そういう人でも入院させてくれるのが、いわゆる「老人専門病院」です。行き場のないお年寄りにとっては「最後の砦」と言ってもよいでしょう。
老人病院の現状
現在の医療制度では、こういった病院は収入が低くなってしまいます。そのために医師や看護師も手薄な人員配置にせざるを得ないのです。当然、医療の質も高くはありません。設備投資も不可能と言ってよく、ほとんどの老人病院が老朽化しています。エアコンが壊れても不思議ではありません。あの病院は全国津々浦々どこにでもある普通の老人病院です。
医療費削減政策
確かにあの院長の対応はお粗末です。だからと言ってあの院長を個人攻撃しているだけでは報道の意味がありません。今回の事件の根源には国の行き過ぎた医療費削減政策があるのです。そこに切り込まないと、同様のことが必ず起こると思います。もっと踏み込んだ取材をして、勇気を持って「政権批判」をしてもらいたいと思います。話はそれますが、自民党総裁選で石破氏が「正直、公正、石破」と言ったら、安倍総理への個人攻撃だと安倍氏の取巻から非難されました。安倍氏が「嘘つき、依怙贔屓」であることを認めたようなものですが、メディアはこれを叩きません。「強きを助け、弱きをくじく」、そんなメディアは即刻退場すべきです。
命を大切にする世の中に
病院だけではありません。これだけ熱中症の死者が出ているのに「うちの会社は毎日3人くらい倒れている」と平気で言っている人がいます。熱中症になった野球少年の親に「明日は練習を休ませてください」と言ったら、いかにも不満そうに「甲子園に出る子たちはどんなに暑くても頑張っている」と言われました。毎年、スポーツ中に熱中症で亡くなる少年少女がいるのです。その中で一番死者が多いのが野球です。甲子園大会は犠牲者の上に成り立っていると言っても過言ではありません。熱中症だけでなく、過酷な練習で肩、肘を壊してしまう子も後を絶ちません。天賦の才を与えられ、運に恵まれた子だけが華やかな場に立っているのです。
会社や部活、少年団等は軍隊ではありません。少々の犠牲者が出ようが、会社が儲かればいい、チームが勝てばいいというのは、悪しき日本の伝統です。そんなことを続けていたらいずれは会社が潰れます。日本が潰れます。もっと人の命を大切にする世の中にしましょう。
つばさクリニック院長 石川 亨
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