2025年12月 国宝
今月も映画のお話をします。皆さんご存知の「国宝」です。22年ぶりに歴代1位の興行収入の座を獲得した、ということですが、まさにその快挙は伊達ではない、素晴らしい作品でした。
一流俳優の底力
何といっても主演の2人、吉沢亮(以下、亮)と横浜流星(以下、流星)の演技が特筆ものでした。歌舞伎役者、しかも女形を見事に演じ切っていました。本物の歌舞伎役者なの?と思えるくらいに美しく艶やかな姿でした。形や動きだけでなく、魂までも歌舞伎役者になり切っていました。渡辺謙(以下、謙)もさすがの存在感でしたが、今回ばかりはこの二人の姿が際立っていました。
映画の中で、二人が初めて主役を演じる舞台の前に、師匠役の謙が亮にかけた言葉が印象的でした。「あんたはワシの所に来てから6年間、稽古を休んだことは1日もあらへんはずや。迷った時は身体が勝手に動きよる。大丈夫や」まさに、この二人はこの映画に向けて身体が勝手に動くまで稽古を続けたのだと思います。
母親の愛情
流星は謙の実の息子、亮は謙の養子です。亮の実の父親は暴力団の組長でした。ある日、その組の宴席で少年だった亮が女形を演じたのです。そこに居合わせた謙が亮の演技にほれ込んで、養子として歌舞伎界に迎え入れたのです。ここから亮と流星の義兄弟としての生活、というより修業が始まります。朝から晩まで稽古漬け、中学校の帰り道ですら二人で切磋琢磨していました。
ある日、謙が大事な舞台を前に交通事故に遭ってしまいます。足を骨折してしまい、舞台には立てない。そこで代役を立てることになりました。二人の息子の亮か、流星か?謙が指名したのは養子の亮。しかし、ここで断固として反対したのが流星の母親である寺島しのぶ。「流星は私たちの子供です。あんな泥棒猫(亮のこと)が代役なんて・・・」と、涙ながらに訴えます。母親の愛情の深さに鳥肌が立ちました。
悪魔との取引
華やかな歌舞伎の世界。でも、その裏側には我々一般人には計り知れない愛憎と謀略に満ちた闇の世界があります。昨日の友は今日の敵、天国から地獄の繰り返しです。亮も流星も御多分にもれず、その荒波に飲み込まれて何度もどん底に堕ちます。それでも歌舞伎に対する情熱、というより執念を糧にして甦ります。
象徴的なシーンがあります。亮が、妾の子と初詣に出かけた際、神様に祈ります。妾の子が訊きます。「何をお願いしたの?」。亮が答えます。「お願いはしてないよ。悪魔と取引をしたんだ。」「取引?」「そう、日本一の歌舞伎役者になるためだったら、全てを犠牲にするってこと」
このセリフには思わず唸りました。あらゆる障害を乗り越える強さを持った悪魔、それは人々をこの上もない場所に連れて行ってくれるヒーローなんです。出でよ、ヒーロー!
つばさクリニック院長 石川 亨








